在庫増は売主に価格競争を意識させる

東日本レインズの2026年8月データでは、首都圏中古マンションの在庫件数が前年同月比8.2%増え、6カ月連続の増加となった。一方、成約件数は10.5%減、成約㎡単価も3.8%下落している。これは「売れなくなった」と単純化できる数字ではないが、買主が比較できる物件数が増えていることを意味する。数年前の在庫不足局面では強気の売出価格でも購入希望者が現れやすかったが、選択肢が増えれば、同じエリア・似た条件の競合物件との差が意識される。売却を計画する所有者は、相場の最高値ではなく現在の競合と直近成約を基準に価格を考える必要がある。

査定価格と実際の手取りは別に考える

不動産売却では「いくらで売れるか」だけでなく、「いつ売れるか」と「最終的にいくら残るか」が重要である。売出価格を高く設定すると値下げまでの期間が長くなり、その間に管理費、修繕積立金、固定資産税、ローン利息などの保有コストが発生する。賃貸中の投資物件では、賃借人の契約内容や賃料水準が買主の利回り計算に直結する。非居住者売主の場合は、条件により売買代金の10.21%源泉徴収が発生するケースもあり、契約価格と決済時の受取額が異なる。売却判断では査定額だけでなく、税・費用を引いたネット手取りを確認する必要がある。

2026年後半は「売れる価格」の把握が鍵

在庫が増える市場では、値下げそのものより最初の価格設定の精度が重要になる。相場から大きく離れた価格で長期間掲載されると、買い手から「売れ残り」と認識され、後から価格を下げても交渉が強まりやすい。一方、希少な立地、良好な管理、新耐震、眺望など明確な優位性がある物件は平均市場が弱い時でも価格を維持できる可能性がある。海外所有者は現地確認が難しいため、仲介会社から同一マンションや近隣の成約事例、競合在庫、販売日数を取得することが特に重要だ。2026年後半の売却市場では、「過去にいくらだったか」より「現在、同条件の買主がどの価格で動いているか」が価格戦略の中心となる。